米作りと並行して中小企業診断士としての顔も持つ夫の亀田泰志さんと、わくわくお米本舗の代表取締役で「玄米スナック」や「玄米ぽん」を自ら作られている妻の操さんの対談です。「このままでは国産米が食べられなくなるかもしれない」という今の日本の現状を、どう打開していくのか?
それぞれの視点からだいぶ切り込んだ裏の事情まで、赤裸々にお話をしていただきました。これから農業を目指される方にも、国産米を食べ続けたいという方にも、ぜひ読んでほしい内容となっています。
世界的にはインフレが進んでいて、日本だけがデフレで取り残されてる
どうする?もう米作るのやめちゃう?
一同(爆笑)
いきなりですね(笑)
まぁ、そんなこと言わずに(笑)でも、こんなお米が安くて経費が上がるとやる気なくなるよね。60キロ、1俵のお米が品種によっては7000円!去年の半分だもんね。市場の原理とかいってどこかの誰かが決める生産者米価・・・それに機械、資材、燃料、肥料、電気代などのコストは上昇。
経済が上向きで、コスト上昇も緩やかであれば、需要と供給のバランスにより市場で価格が決まるのも成り立つ気がするけど、今の状態が続くと、このビジネスモデルは成り立たないよね。どう考えてもほとんどの米農家は赤字。
作り手の労力に見合わないんですね。
そんな自分で売値が決められないビジネスが嫌で、がんばって飲食店とかへの販売を増やしてきたのにね。ようやく自分で作ったお米を自分で営業して、自分で売れるようになったのに、コロナでそれが裏目に出ちゃったね。
ちょうどコロナによる自粛政策の一環として、飲食店の時短営業の要請があったりなど、生産者側もその煽りを受けた形になったんですよね。
いやぁ、厳しい!うちも飲食関係の売上が激減。取引先によっては五分の一にまで減ったところもあるもんね。
これからどうなっていくんだろうね。
コロナの影響で業務用米の需要が減ってるから、コメ余りによる米価の低迷はもうちょっと続くかな。それに対して、海外から輸入している原材料や肥料などはもっと上がっていくだろうね。世界的にはインフレが進んでいて、日本だけがデフレで取り残されてる。また、中国をはじめとする経済成長している国での様々なモノの需要は高まって、そうした国に買い負けちゃう。すでに中国から輸入している肥料の原料の一部は、日本に売るより中国国内の方が値段が高くなってるから、入ってこなくなってるんだよね。実際に来年の肥料の値段が1袋500円から600円上がるって肥料屋さんに言われた。
え?この前も値段上がらなかった?
うん、毎年のように上がってきているよね。肥料だけでなく、再生可能エネルギーの普及で世界的にエネルギーの調達コストが上がっているから、燃料だけでなく、輸送コストも上がって、いろんなものの値段が上がっていくかもね。
自然は祖先から譲り受けたものではなく、子孫から借りているもの
やだぁ~んね(笑)
出た、栃木弁。うん、やばいね。とはいえ、世界的な経済の流れとか、国の政策などは自分ではすぐには変えられないので、この環境の中で自分たちにできることからやっていくしかないよね。世の中の不平ばかり言ってても何も変わらない。
こうした環境変化の影響は何も農業だけには限らない。でも、農業の良さは食べ物を作っていることだと思うんだ。人間は食べないと生きていけない。その中でも日本国内で100%自給できている貴重な食べ物がお米。もちろん、肥料やエネルギーなど輸入に頼らずに完全に米作りをやっていけるとは思わないけど、主食である米ぐらいは可能な限り国内のものだけで作っていけるようにしたいよね。
そうだね。国産の米が食べられなくなったら子供たちが困るもんね。ネイティブアメリカンの人たちの言葉で、“自然は祖先から譲り受けたものではなく、子孫から借りているものだから、きちんとして返さないといけない”という話があるけど、私はこの言葉が好きだなぁ。自然や農業のできる環境は、きちんと子供たちに残さないと!それが今の大人の使命かもね。
一同(うなずく)
でも、米作りを続けられなくなる要因はこれ以外にもあるよね。
うん、さっき話したビジネスの仕組みとしての限界もあるけど、うちのエリアではイノシシの被害も甚大・・・数年前までは一部の田んぼに被害が限定されていたけど、どんどん被害エリアが広がっている。
イノシシがお米を食べてしまう。
今年も電気柵増やしたけど、これも限界があるもんね。お金もかかるし、手間も増える。
それと、灌漑設備の老朽化。この前も大きな揚水ポンプが壊れた。けど、農家が減ってるから修理代を捻出するのが大変。今回はなんとかなりそうだけど、次壊れたらアウトだね。そういう地域はもう米作りあきらめるしかない。水が来ないんじゃ米は作れない。ため池や用水路の整備も個人じゃもう無理だよね。
どうにもならないことも多いけど、自分たちの工夫でなんとかできるところからやるしかないね。前向きに!そして楽しくやっていこう!
そうだね!うちは、まずは自分で値段を決めて売ることができるように、改めてお米の売り先を飲食店だけでなく、個人のお客様にも広げて、お米のお菓子の販売にも力を入れていこう!お米を作る方も大規模化するのではなく適正規模化して、生産の効率化を進めていかないとね。
土を触ったときの暖かさ、風が吹き抜けた時のきもちよさ、夏の夜のカエルの大合唱やホタルの光、そして秋の虫の音。自然を常に感じて仕事ができるのは最高だね
あと、お米を作っていく大変さとか、問題点とかの話も大切だけど、やっぱり米作りの楽しさ、素晴らしさの話もしようか。
確かに・・・楽しい話もしないとね。ちなみに操の考える米作りの楽しさ、素晴らしさって何?
うーん、やっぱり自然の中で仕事ができることかな。仕事の中で季節の移ろいを感じることができるのって素敵よね。
確かに。土を触ったときの暖かさ、風が吹き抜けた時のきもちよさ、夏の夜のカエルの大合唱やホタルの光、そして秋の虫の音。自然を常に感じて仕事ができるのは最高だね。それと、家族で一緒に仕事ができることも自分にとっては楽しいこと!家族みんなで種まきして、苗を運んで。田植えしたり、稲刈りしたりも子供たちと一緒にできる。基本は一人で農作業することが多いから、たまに子供たちと農作業できるとほんとに楽しい。働く親の姿を見せられるのも教育上とってもいいよね。
あ、それとお米作りというか、お米の楽しさは、お米からいろいろなものを作れるところもある。うちだけでも玄米スナック、玄米ぽん、黒焼き玄米珈琲などなど。粉にすればパンにもケーキにもなる。
さすが食品加工部長!だからロゴマークのお米を虹色にしたんだもんね。お米は7色に変化する!
野菜から撤退して米専門になり、加工所を作って。いやぁ、いろいろあったね
思い返せば、私がほぼプータロー状態のときに結婚して。そのころは診断士の試験にも受かってなかったもんね。
おお、懐かしい。私もよく結婚したもんだ。
ん?それは感謝してる(笑)その後、なんとか中小企業診断士の試験に合格して。急に農業やる!なんて私が言い出して。
そうだったね。ナス150本からのスタートだったね。
ね。それから野菜から撤退して米専門になり、加工所を作って。いやぁ、いろいろあったね。これからもよろしくね。
こちらこそ!これからも家族で協力し合って、わくわくした人生を歩んでいきたいもんだね。
ね!たった一度の人生だもの。無理せず、かっこつけずに。これからもやりたいことやっていこう!
国産米を食べ続けたい皆さんにとっても、今日のお話はけっして他人事ではないと感じられたのではないでしょうか。
消費者として今後、何をどのように消費していけばいいのか、考えていきたいですね。
貴重なお話をどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
「お米作りはなにかと大変で問題はたくさんあります」と亀田夫妻。ですがお話を伺う中、前向きに米づくりへ取り組もうとされているご夫婦の目からは「わくわく」が伝わってきました。未来の子どもたちへ、しっかりとした米作りの環境を残していきたいですね!!